かえでの保育だより

幸せな子ども時代 -中川李枝子さんからの贈り物-

 絵本「ぐりとぐら」の作者である児童文学作家の中川李枝子さんが天に召されたことをニュースで知りました。その日私は思いをこめて「ぐりとぐら」を子どもたちに読みました。子どもたちは「この本持ってるよ!知ってる!」といいながらお話に夢中になり、子どもの心をとらえて離さない魅力は、昔も今も変わらないとの思いを新たにしました。

私がはじめて母から読んでもらった中川李枝子さんの本は「ももいろのきりん」でした。5歳だった私はそのお話に引き込まれ、公園の木馬で友だちとももいろのきりんごっこをしたことを覚えています。「そらいろのたね」「いやいやえん」と繰り返し読んでもらう本が増え、「ガブリちゃん」では主人公のたねこと同じスカートを母が縫ってくれた嬉しい記憶があります。「たんたのたんけん」では、物語にでてくる苺のザラメのアメを母が探してきて、兄弟3人で大きなアメをほおばってわくわくしながら探検に出かけました。小学校に入ると少し長い「かえるのエルタ」や「らいおんみどりの日ようび」等を何度も繰り返し読んでもらいました。その後すぐに母が闘病生活に入り子ども時代は終わりを告げましたが、私の子ども時代は短かったけれどとても幸せで...そのそばにはいつも中川李枝子さんの作品がありました。保育者となって子どもたちにその作品を読むことができることは、私にとって大きな喜びでした。

また、大人になって親となり慣れない土地での子育てと介護に悩んでいた時、思い詰めた気持ちで「母の友」(2001・9)という雑誌に、小さな息子のつぶやきを投稿したことがありました。その言葉が掲載され、編集後記で選んでくださったのは中川李枝子さんだったことを知りました。自分の子育てに自信が持てず、親同士の人間関係に疲れ、人のちょっとした言葉に傷ついてばかりいた私は「たくさん愛されている子どもの言葉に私は脱帽!」との中川李枝子さんの言葉に、それでいいのよ...だいじょうぶだいじょうぶ、と子育てを優しく肯定して頂いたような気がしてとても救われました。肯定されることの喜びや大切さを体験させていただき、それからは読む度にその時のあたたかさとほっと安心した気持ちをも思い出すようになりました。

中川李枝子さんの作品には、子どもも大人もお話の世界に一緒に入りこめる楽しさがあります。面白さや喜び、弾むような子どもの「時」が、生き生きと作品の中にあるからだと思います。そのお話の中には、子ども時代を生きる、いわゆるいい子ではない子どもたちがでてきます。「いやいやえん」のしげるちゃんがその代表でしょうか。子どもたちがくすっと笑って共感し、安心するような子どもの姿です。子ども時代を子どもとしていきいきと生きることを、愛をもって見守る作者の思いが時代を越えて伝わってくるようです。

幸せな子ども時代は、目にはみえませんが、子どもの心の土台となってその子の人生を支えます。そんな幸せな時を子どもたちに過ごしてほしい...と願ってやみません。それは、今を生きる私たち大人が子どもたちに対して共に抱く祈りではないでしょうか。そんな祈りと願いをこめて、これからも中川李枝子さんの作品を大切に、感謝の思いを胸いっぱいに、心をこめて子どもたちに読み継いでいきたいと思います。

「わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです。」 コリント信徒への手紙Ⅱ4章18節

片岡 朝子



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