かえでの保育だより

ワークの風景から

 5月25日(土)、今年度の年長組父子による1回目のワークが行われました。

 51年前のかえで幼稚園が創設された時、庭にあった遊具はすべりだい、ブランコ、ジャングルジムだけ。そして今よりずっと小さな砂場が設置されていました。木も低くひょろひょろと細く、とても木登りをすることなどできませんでした。当時、主事だった大学の飯田泰造先生が、子どもの遊びが広がり、深まる環境を創りたいと考え、保護者の方に呼びかけ、ワークが始まりました。

 私がかえで幼稚園に勤め始めた時、作ることは好きでしたが、木工の経験はなく、何をどうしたら良いのかわかりませんでした。シーソーや、ブランコの前の一本橋、テーブルや椅子、年少組の保育室にある車、ペンキ等などの担当になると、設計図を見てどんな材料や道具を用意したらいいか考えます。一人で考えるだけではわからないので先生方に相談もしました。

 年少組にある車は創設時に飯田先生が学生と作ったもので詳しい資料が残されていません。そこである年、今ある車が壊れないうちに新しいものを作っておこうということになりました。実物を見て寸法を図り、材料を用意します。ワーク当日お父さまたちに車作りの説明をします。この車は釘やL字の留め金などが使われていません。木の板をはめ込んで作られています。寸法が違うとはめ込めなくなったり、曲がった車になったりしてしまいます。私があらかじめ木材に引いておいた線を見て一人のお父さまが「この線はどのように引きましたか?」と聞かれました。建築に詳しい方で左右対称のものは端から測るのではなく中心から測らないとずれてしまうことを教えて下さいました。私は端から測って線を引いていましたので、全ての線を計り直すところから始まりました。お父さまたちは嫌な顔をせず、「それは知らなかった」「勉強になるなあ」と言いながら一つずつ測り直し、線を書いて下さいました。全ての板を切り組み立てる時には何人ものお父さまが力を加減し合いながらはめ合わせます。「もう少し、ここを削ったほうがいいですね」「平らにしないとはまらないのでこちらを支えますね」とことばを掛け合って作り上げていって下さいました。子どもたちはお父さま方が相談したり、力を合わせている姿を真剣に見ていました。

 ワークの風景の中には、お父さま方の作ることの楽しむ姿、どうしたらいいか考える姿、汗を流して力を出したり、その場にいらした方と心と力と知恵を合わせる姿、やり終えて喜び合う姿などが見られます。子どもたちもその姿から人と人がつながり合い、作業をする楽しさや大切さを学んでいると思います。

[飯田先生はお亡くなりになり天国に行かれました。しかし、飯田先生の伝えて下さったワークの楽しさと手の技とことばは、今でも私たちの中に残っています。飯田先生はこうおっしゃいました。「ワークは『はたらく』ということ。これは『はた(傍・他者)を楽にする』ということ。それはイエスさまの言われた『隣人を自分のように愛しなさい』というみことばにつながっていることです」と。誰かのために仕えること・ともに生きること・何もないところから何かを創り出すことは、かえで幼稚園の歩みであり、かえでの保育の心です。(東洋英和女学院史料室だよりNo.102 創立記念日、ワークの日に伝える歴史と理念 大漉知子文より)]

 子どもの遊びを支え豊かにし、子どもに関わり合いを伝えてくれるこのワークの時をかえで幼稚園の理念の反映の時として私はこれからも大切にしていきたいと考えています。

永瀬 真澄

「隣人を自分のように愛しなさい」(マルコによる福音書1231節より)



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