かえでの保育だより

ことばの力

昨年の11月からオンラインでの朗読会に参加しています。お話の勉強会を一緒にしていた仲間のTさんが視力を失い、本を読むことができなくなってしまったので「本の大好きなTさんに本を読んであげよう」という思いで勉強会の仲間と始めた会です。けれど始めてみるとTさんのためというより私自身が読んでもらうことが楽しくて「本を読んでもらうっていいなあ」と感じています。その思いは私だけでなく読み手を引き受けている仲間がみんな味わっていて、「忙しいのに自分のために時間を割いて朗読会をしてくれることが申し訳ない」というTさんに「申し訳ないなんて思わないで〜。読んでもらう嬉しさを改めて感じている。私たちこそこの時間を持たせてもらってありがとう」と話しています。今、読んでいるのは、『夕暮れに夜明けの歌を』(奈倉有里著 イーストプレス発行)という本で、著者がロシアに留学をした時のエッセイです。ロシアは、ウクライナとの戦争により世界中から非難を浴びている国ですが、この本にはロシアに住む魅力的な人たちや深く根付いている文化、文学が描かれています。悲惨で凄惨な現実の向こうにいる生身の人々の暮らしが見えてきます。読んでもらうことで、より一層ロシアの風景やそこに暮らす人々が大切にしているものが頭の中に広がります。

私は児童文学者であり、長く福音館書店で子どもの本づくりに携わっていらした松居直先生から短大時代にことばについて、絵本について学びました。この度、再放送されていたN H Kのこころの時代という番組で、久しぶりに松居先生の温かいことばを聞きました。「聞くことばは語っている人の気持ちが聞き手に伝わる。文字を読むことより聞くことがはるかに大切。物語を聞くことで体験となり、心が豊かに育つ」

(松居先生が生きるということを教えられたのがトルストイだとは感慨深いものがあります。)

朗読会をすることで、「本当にそうだ」とで実感しています。読むことで本の内容は理解するのですが、聞くことによって本に書かれていることが私の体験となっていきます。

そのようなことを思いめぐらしながら、「今日は子どもたちにどの(絵)本を読もうかなぁ」と選んだり考えたりする時は、私の楽しみな時間です。子どもに語ることを大切にしていきたいです。

 

「初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった。」(ヨハネによる福音書11節)

                               永瀬 真澄

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