誕生日
ある朝のことです。のはら組の洗面所から歌声が聞こえてきます。「♪あしたはおたんじょうびかい〜きょうじゃないよ〜。はやくあしたになってね〜」せっけんを手につけ泡立てながらAちゃんが歌っています。私が近づいて行ってもAちゃんは歌い続けます。ニコニコとAちゃんを見ている私に気がつくと、Aちゃんは「あしたAのたんじょうびかいだよね」と聞きます。私が「そうよ、明日はAちゃんのお誕生日会よ。いっしょにお祝いしましょうね」と言うとAちゃんは「うん」とうなずきまた歌い始めました。
私はAちゃんの姿を見ながら一冊のお話を思い出していました。それは「たんたのたんけん」(中川李枝子作 山脇百合子絵 学習研究社発行)というお話です。この物語は誕生日を迎えた主人公のたんたのところに地図が届き、たんたは探検の準備をして出かけ、途中でひょうの子に出会うというお話です。実は地図を送ったのはこのひょうの子バリヒなのですが、二人は意気投合して探検を楽しみます。たんたは毎朝、起きると窓にのってせいのびをし、「♪きのうはまえの日 きょうはほんとの日 いよいよぼくのたんじょう日」とうたいます。そしていよいよ本当のお誕生日の朝、「ばんざい」と飛び起きてやはり「♪きのうは〜」という歌を歌います。なんて、すがすがしく喜びに満ちた朝でしょう。このお話が私はとても好きで年長組の担任をした時にはよく子どもたちと読みました。この箇所を読むたびに私にも子どもにもたんたの嬉しい気持ちが伝わってきました。たんたがせいのびをしたように自分も背筋をピンと伸ばしたくなる気持ちになります。
なぜ、こんなに誕生日って嬉しいのでしょう。大人になってもですが特に子どもにとっては誕生日は特別な日です。それは自分が愛され、喜ばれている存在だということを家族や周りの人からの「おめでとう」ということばを通して感じとるからでしょう。愛され喜ばれている存在だという実感と共に子どもは安心して"大きくなる"ことができると思わされてきました。
さて、Aちゃんは楽しみにしていたお誕生日会を終えての帰り際、靴を履き替えながら、「ふー」っと大きく肩で息をしました。待ちに待った誕生日会でしたが、皆から注目されてきっと緊張もしていたのでしょう。お母さんと手をつないで帰る後ろ姿がホッとしているように見えました。探検を終えたたんたも最後はお母さんが待っている家に走って帰って行きます。
「あなたがたは神に愛されている子供です。」(エフェソの信徒への手紙5章1節より) 永瀬真澄