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2021年度4月期入学式 式辞

 皆さん、このたび本学大学院への御入学・御進学、まことにおめでとうございます。昨年度は、新型コロナ禍という私どもが経験したことのない事態の下で、入学式を執り行うことができませんでしたが、今年度は感染防止のためにさまざまな施策や措置をとりつつ、何とか入学礼拝という形で式典を挙行することが可能となりました。これも皆さんのご協力あってのことと先ず以て感謝申し上げます。

 さて、そのコロナ禍ですが、いまだに全世界で猖獗を極めており、罹患者の総計は1億3千万人に迫ろうとしております。わが国でも、感染の第四波に入ったとの報道が連日なされているのはご承知のことかと存じます。百年に一度の感染爆発(パンデミック)と形容されることもあるようですが、確かに、振り返ってみれば第一次世界大戦末期からヨーロッパを発火点として全世界に広がり、およそ4億人が感染したと伝えられる「スペイン風邪」以来の百年ぶりの大流行となっているのは事実です。

 未曽有の大戦争となった第一次大戦とスペイン風邪のパンデミックを経験した当時のヨーロッパにおいて、広く人口に膾炙した言葉に、「日常への回帰(Return to Normalcy)」

という言い回しがありました。人々は、戦争以前の社会を「古き良き時代」として理想化し、それこそが「戻るべき日常」にほかならないと錯覚していたのです。しかしながら、実は戦前においても、安定しているかに見えた19世紀的秩序や国際関係は複雑化を続け、各国社会にはさまざまな矛盾や軋轢が蓄積されていました。また、鉄道、自動車、電信といった当時の科学技術の急速な発達によって、いまで言うところの「グローバル化」が進展していたという事実も見逃せません。表面上は平穏無事に見えた「戻るべき日常」の奥底の部分には、人間社会の地殻変動が時々刻々と進行していたことになります。第一次世界大戦やスペイン風邪の感染爆発は、そうした地殻変動が表面に噴出した結果だと考えなければなりません。

 翻っていま、私たちが直面している新型コロナ禍もまた、当初わが国にもたらされた経緯がクルーズ船その他のいわゆるインバウンドの人流であったという事実が示しているように、ヒト・モノ・カネ・情報が国境を越えて自由に往来する、私たちの時代のグローバル化の所産であることは明らかです。また、コロナ禍によって抉り出されつつあるさまざまな情景は、突如青天の霹靂のように降って湧いた現実ではなく、コロナ以前から始まっていた変化が可視化されたものと考えるべきなのではないでしょうか。学問研究というのは、難しく言えば「認識行為を主体的に切り開く」営為です。そうだとすればそれは、一見して平穏に見える社会や普通に見える人間の日常の深奥部でいったい何が進行しつつあるのかという問題関心を抱くところから出発するのだと思います。

皆さんはこの大学院が社会人対象の夜間大学院であることを十分に認識されて、社会人としての責任を果たしながら、ここで専門的な知見の獲得と学問的な研鑽を積まれようと決意されているものと信じます。何よりも、その志に対して心よりの敬意を表したいと思います。

 申し上げるまでもありませんが、大学院というところは、社会が用意する高等教育制度の最終段階として存在しています。もちろん、人生のすべての時間を通して、人間は学びを止めることはありません。しかし、用意され、準備された環境のなかで、教員や職員の手厚い助けの下で学ぶ機会は、皆さんにとって、極めて貴重なものになるにちがいありません。そして、そこで求められるのは、研究上の「独創性」にほかなりません。もとより、独創性の「独」は、孤独の独であり、独立の独でもあり、要するに一人で創り出すという意味ですけれども、この大学院では共に歩む院生仲間がいます。研究の先達である教員がいます。さらには、歴史の彼方から文献や業績を通じて啓発してくれる学問上の偉人たちが控えているのです。これらの仲間・先達・偉人たちとの交わりの中から「独創性」なるものが立ち現われてくるのです。そのような交流の場を大切にして、これからの大学院生活を楽しんで過ごしていただきますよう切に望んでおります。

2021年4月3日

東洋英和女学院大学

学長 池田明史

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