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2020年度3月期学位授与式 式辞

修士号の学位を授与されて、本日ここに晴れて大学院の課程を修了されるみなさん、おめでとうございます。仕事と学問とを両立させてきたみなさんのこれまでのご努力に対し、そしてその努力を支え続けたご家族の方々のサポートに対しまして、心からの敬意を表したいと思います。にもかかわらず今年度の学位授与の式典に関しては、新型コロナの感染拡大に伴う緊急事態宣言が継続中であることに鑑み、これを簡略化して実施することとなった結果、ご家族やまたご来賓の皆様には、出席を控えていただくようお願いせざるを得なくなりました。まことに申し訳なく思いますが、これも感染防止に万全を期すための措置としてご理解を賜わりたく存じます。

 さて、みなさんの多くは社会人として昼間は仕事に精勤し、その疲れを抱えたままこの夜間大学院に通われて学問の研鑽に励まれました。とりわけ今年度は、ご勤務先においてもご家庭にあっても、コロナ禍の蔓延という予想もしなかった事態に直面して多くのご苦労を重ねられたことと拝察いたします。コロナ禍への緊急対応として導入された遠隔授業に対して、慣れない中にも緊張感と集中力をもって取り組まれたことでしょう。その後、講義や実習、あるいは指導が部分的にもせよ対面型に戻った時には、いつもの年度とは異なる感動や充実した雰囲気を味わうことができたのではなかったでしょうか。当たり前の日常が実は当たり前ではなく、文字通り有難きこと、感謝すべきことという気づきにつながったに違いありません。

 3月半ばのこの時点で、世界中の新型コロナ罹患者は12千万人に迫る勢いで、死者数も260万人を超えています。要するに日本の人口がすべてコロナに感染し、大阪市の全人口が死に絶えたというに等しい計算になります。このような厳しい現実に直面するとき、人間はえてしてものごとを単純化して理解しようとする方向に傾きがちなのではないでしょうか。今回のコロナ禍もそうですし、一昨日被災から10年を迎えた東日本大震災についても言えることですが、どうもわれわれには社会の現象や事件に対して、その現実が厳しければ厳しいほど、あまりにも単純な、短絡的な解釈を当てはめてしまう性癖があるように思えるのです。それらの現象や事件は、実は複雑に錯綜した要因が積み重なって出来しているにもかかわらず、そうした個々の要因をそれぞれに分析して、そこでの関係性とは何かを追求するという、地味で、ある意味では退屈な見方よりも、大上段に振り被った議論で白か黒かをはっきりと切り分けてくれるものに飛びついてしまう傾向があるのではないでしょうか。

感染症対策にせよ、災害対策にせよ、「リスクがゼロになる」ことなどあり得ないわけです。ゼロリスク、あるいは痛みのない対策はありません。しかし人々は、あたかもゼロリスクがあり得るように、対策を要求したり、他者の行動を批判したりするのです。この大学院で研究者としての訓練を受け、修士の学位を授与された皆さんには、現実の複雑さに堪えるという姿勢を全うしていただきたいと強く願います。われわれの社会が直面している現実の複雑さにたじろがず、これと真正面から向き合う勇気を持っていただきたい。如何に厳しかろうが、われわれはこの現実から目を背けるわけにはいきません。解があろうがなかろうが、この現実を真っ向から見据える以外にはない。そこからしか、前に進むことはできないのであります。皆さんが漕ぎ出していかれる先には、それぞれの領域においてこうした複雑さが待ち受けているはずです。どうか、それに堪えて、前に進んで行っていただきたいと切に望みます。

 本学では学位記とともに修了生お一人おひとりに黄色い水仙の花をお贈りすることにしております。これは東洋英和女学院の慣行であり、その起源は戦前にまで遡ります。学院所縁(ゆかり)の地であるカナダでは、黄色い水仙は主であるキリストの受難と復活を記念するこの時期に一面に咲き誇るところから、レントリリー(「受難節の百合」)とも呼ばれる花です。復活のキリストを仰ぎ、その光の中を一歩一歩着実に、雄々しく歩んで行ってください。この花の一輪一輪に込められた「敬神奉仕」という英和のスクールモットーを、どうか忘れないでください。それこそが、世に氾濫する複雑さに堪えながら懸命に前へ進もうとする皆さんの拠りどころとなってくれるに違いありません。このことを確信しつつ、私の式辞を締め括ります。

 

2021313

東洋英和女学院大学

学長 池田明史

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