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EU(欧州連合)にノーベル平和賞

2012年10月25日

国際協力研究科 小久保康之

t_news2.png 2012年のノーベル平和賞をEU(欧州連合)に授与する、とノルウェーのノーベル賞委員会が10月12日に発表した。第2次世界大戦後60年間にわたり、欧州の平和と和解、民主主義と人権の促進に寄与したことがその受賞理由である。
 EUが発足したのは冷戦崩壊後の1993年であるが、その起源は1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)に遡る。70年の間に3度の戦禍を欧州大陸にもたらしたドイツとフランスの対立を克服するために、当時主要産業であり、独仏対立の原因であった、石炭・鉄鋼資源を超国家的な機関により共同管理することで、独仏和解をもたらしたことがEU統合の出発点であった。その後、紆余曲折を経ながら、1958年には欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom)を設立し、1967年にそれまでの3つの共同体を併せて、EC(欧州共同体)に発展した。冷戦崩壊後は、そのECを発展させ、マーストリヒト条約により現在のEUが設立されることになる。
 授賞理由の最大のポイントは、ドイツとフランスのナショナリズムを克服し、欧州大陸に平和と経済的繁栄をもたらしたこと、欧州大陸に民主主義制度と基本的人権の尊重を広めたことにある。南欧のギリシャ、スペイン、ポルトガルはそれぞれ、独裁体制から民主主義国家に移行してから当時のECへの加盟を認められたし、冷戦構造崩壊後は、中・東欧の旧共産圏の諸国がEUへの加盟を目指すことで、欧州大陸全域に、民主主義と人権の概念が定着していった。欧州はEU統合と共に、対立と戦争の大陸から平和の大陸へと変貌したのである。
 昨今EUは、ギリシャの債務危機に代表されるような経済・財政危機に陥っており、マスメディアにおいてもEUは破綻の危機にあるといったマイナスの報道が多い。ノーベル平和賞の授与で、EU諸国が今一度団結を取り戻し、欧州大陸の平和と経済的繁栄の維持に寄与することをノーベル賞委員会が期待している部分が大きいとも考えられる。
 実際、EUには混乱が絶え間なく続いている。今回のノーベル平和賞の受賞に際しても、誰が12月10日の授賞式に参加するかで揉めている。EU常任議長のファンロンパイ氏、EUの執行機関である欧州委員会委員長のバローゾ氏、それに欧州議会議長のシュルツ氏の3名が授賞式に参列する方向で一旦は調整にはいったが、誰が受賞演説をするかは未定である。ファンロンパイ氏はEU加盟国の首脳が集まる欧州理事会の常任議長であり、EUの代表格の一人である。バローゾ氏は、欧州統合を牽引し、超国家的なEUの象徴である欧州委員会の長である。シュルツ氏は、EU市民が直接普通選挙で選出する欧州議会の議長である。誰もが、我こそはEUの代表者であると名乗りを上げている状況にある。正に、EUの複雑な多頭性システムを象徴している。
 ファンロンパイ氏は、10月18日にツイッターで、EUの全首脳が授賞式に参加することを呼びかけるなど、混乱の収拾を図ろうとしている。ところが、EU統合に比較的冷めている加盟国である英国のキャメロン首相は、EUのみが欧州の平和に貢献したわけではない、として参列を見送る姿勢を示している。果たして、12月10日の授賞式に誰が参列し、誰が受賞演説を行うのか。そんな問題でもEUは揉めに揉めているのである。
 ユーロ危機や財政危機が叫ばれる現在のEUは、さらに大きな混乱の中にあると言っても良い。しかしながら、EUは様々な危機をこれまで幾度となく乗り越え、その度に結束を強めてきた。今回のノーベル平和賞の受賞がそのようなEUにとって追い風となり、この困難な時期を乗り越えることを筆者も期待している。
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