大学院トップページ教員・院生からのメッセージ教員からのメッセージ > 「臨床心理士」養成教育に携わって

「臨床心理士」養成教育に携わって

2012年09月04日

人間科学研究科 矢吹和美

「臨床心理士」養成教育に携わって
 
 東洋英和女学院大学大学院人間科学研究科臨床心理学領域は、心理学的な対人援助に関する教育研究をめざして設けられ、(財)日本臨床心理士資格認定協会による「臨床心理士」試験受験資格取得のための第1種大学院の指定を受けている。当然のことながら本領域への入学者は、「臨床心理士」の養成をめざした教育を受けることになる。ここにおける養成教育には、多くの大学院でなされるような研究を中心にした教育とは異なり、心理臨床活動(実習)が含まれる。その活動には、知識に裏打ちされた体験あるいは体験に裏打ちされた知識の習得が不可欠なものとされる。臨床心理学が、体験の学問とも言われる所以はここにある。
 自身の体験にかかわる学びの過程にある者は、心理的な苦痛を避けて通れない。実際入学者の多くが、心理療法、精神病理、人格理論、心理検査などについて学んだことと、現実に我が身が体験している臨床実践が結びついていないということに気づかされる。院生の気づきのありようには、2つのタイプがあるように思う。心理臨床実践を、得られた知識に従ってとにかく実践する者と、自身の感性のままに実践する者である。いずれの場合にも、治療の失敗として体験された時、知識と体験が遊離していることに気づかされる。後者のタイプの者で、心理療法過程が治療促進的なものとなっている場合には、そうした気づきに至らないことがある。極端な場合には、セラピストには何が起きているのか理解されないままに治癒に至っている。ちなみに私は、英和の院生には、セラピストとしてこのような体験をしている者が、案外多いのではないかという印象を持っている。
 いずれにしても、知と体験が遊離しているという気づきは、私たちの心にとって心地よいものではない。できることなら何らかの防衛機制を働かせて、意識に昇らないようにしたいほどのものである。意識に昇ってしまったこの気づきに真摯に向き合うことのできる力を通して、知織を支える体験が体験を支える知識が習得されることになろう。我々教員は、心の葛藤をかかえている者への心理的援助をする「臨床心理士」になろうとする者のこの辛い気づき体験を、支え見守っていきたいと思っている。こうした努力の結果習得された院生のセラピストとしての力量は、毎年秋に行われる「臨床心理士」試験の、全国平均を大きく上回る高い合格率に反映されている。
前へ
一覧へ戻る