東洋英和女学院が創立130周年を迎えた2014年、卒業生のひとりである村岡花子が、NHKの連続テレビ小説のヒロインとなりました。ドラマでは描き切れなかった花子の実像とペンに込めた思いを紹介するために、学院が大変充実したサイトを開設し発信してくださったこと、家族として大変うれしく思っております。
村岡花子は、『赤毛のアン』、『少女パレアナ』、『王子と乞食』、『フランダースの犬』など時代を越えて愛されている英米文学を翻訳する一方、童話や随筆も数多く執筆しました。また女性の地位向上のため、子どもたちの生活を豊かにするために様々な社会活動にも積極的に取り組みました。そうした生き方を決定づけたのは10年の日々を過ごした東洋英和の教育であったと言えましょう。
花子が東洋英和で得たものは、学問だけではありませんでした。それと同じくらい大きかったのは、カナダ婦人宣教師たちから受けた感化でした。校長のミス・ブラックモアをはじめ、先生たちは一人残らず平和主義者であり、人間生活の最高水準を行こうと精進している人々。花子が戦争中命がけで"Anne of Green Gables"を翻訳し続けられたのも、宣教師たちから受け継いだこのスピリットがあったればこそでした。そして、それは生涯にわたり、花子の中に生きていました。
今では東洋英和女学院は、幼稚園から大学院まで完備された学びの場となっています。花子が上級生の頃、宣教師たちと一緒にキリスト教主義の女子大学開設を夢見て、その資金援助のためにえんぴつを売っていたことがありました。花子は東洋英和女学校高等科の卒業論文の中にもその夢を書くほどに熱心に運動していましたが、1918年(大正7年)東京女子大学が開学した時には、すでに山梨英和女学校の英語教師をしていたので、結局入学することはありませんでした。戦後1950年に保育専攻部より改組された東洋英和女学院短期大学保育科では、花子は1968年に亡くなるまで児童文学の講義を受け持ちました。
東洋英和女学院は、130年以上に亘る長い歴史を刻んでいますが、かつての宣教師たちや昔の女学生たちの夢と努力の結実であるということを心にとめておきたいと思います。
村岡美枝
村岡恵理

写真左:村岡美枝(姉)
村岡花子氏の孫で翻訳家。英文学を専攻し、訳書に『アンの想い出の日々』(新潮社)、『ウェールズのクリスマスの想い出』(瑞雲舎)、『うわさの恋人』(金の星社)など。
写真右:村岡恵理(妹)
村岡花子氏の孫で作家。東洋英和女学院高等部の卒業生。NHK連続テレビ小説「花子とアン」の原案となった著書、『アンのゆりかご―村岡花子の生涯』の他、編著多数。