2020年度新入生の皆さんへ
2020年度、新たにこの東洋英和女学院大学大学院に入学されるみなさん、おめでとうございます。また、これまでみなさんを見守ってこられたご家族をはじめ、ご関係の皆様のこれまでのお支えに対しまして心より敬意を表したいと思います。例年であれば大学院は、そのような祝意と敬意とを具体的に示すために、入学式典を挙行して参りました。しかしながら本年は、ご承知のような新型コロナウイルス感染症拡大の状況および政府の対応に鑑み、式典中止のやむなきに至りました。のみならず、授業の開始も必要に応じて延期せざるを得なくなるという、異例の新学期を迎えることとなりました。まことに遺憾であり、私どもとしても苦渋の選択ではありますが、みなさんが大学院生として安全な新生活を始められることを最優先とする決定でありますので、何卒宜しくご理解を賜りますようお願い申し上げます。
今般の世界的なパンデミック(疫病蔓延)は、中世ヨーロッパで大流行したペスト禍や、幕末・明治期日本で繰り返し発生したコレラ禍でのひとびとのパニックを想起させるものがあります。高度に発達した医療技術に全幅の信頼を置いていた現代社会が、突如として得体のしれないウイルスに攻撃されて、誤った情報に右往左往している状況は、迷信や神頼みで平癒と健康とを祈願していた前近代の世の中とどれほど違っているのでしょうか。いまこそ私どもには、合理的で科学的な根拠に基づいて「正しく怖れる」姿勢が求められているのです。高度な専門職を目指そうとされているみなさんの大学院での研究は、そのような合理的な思考や科学的な知識を大前提としているということを、革めて指摘しておきたいと思います。
同時に、迷信時代のパンデミックでは、"memento mori"、すなわち「死を忘れるな」というラテン語の格言が残されていることからも明らかなように、明日の命の保証は誰にもありませんでした。そこから、ひとびとの生き方は大きく二つのまったく違ったものになったと言われます。ひとつは、欲望の赴くままに刹那刹那を享楽的に過ごすという生き方であり、もうひとつは、自分に与えられている時間は限られているという事実を見据えて、その自分にできることとは何かを真剣に考えて実行していくという生き方にほかなりません。本学がみなさんに期待しているのは、もちろん後者です。その際、そうした生き方を追求する上で確実な指針となるのが、キリスト教に基盤を置くこの東洋英和女学院の建学理念である「敬神奉仕」の四文字なのです。
東洋英和女学院が創立されてから136周年、大学が開学してから31周年、そして大学院開設から27周年になるこの年に本学大学院にお迎えするみなさんに、以上の言葉を以てご挨拶申し上げます。
2020年4月1日
東洋英和女学院大学
学長 池田明史