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ギリシャ危機の本質を考察することの重要性

2015年07月30日

国際協力研究科 

国際協力研究科長 教授 小久保康之

 2015年の上半期は、ギリシャ危機の報道が日本でも多く見られた。しかし、この危機の本質を理解するための幅広い視野を持ち、国際政治の動向を冷静に見つめることができなければ、日本はまたしても独りよがりの孤立主義に陥るのではないか、と心配になる。「ギリシャ人は怠け者だ。ドイツ人みたいに規律正しく働くべきだ」といった情緒論や、ギリシャがデフォルトした時の経済的影響や単一通貨ユーロの導入自体が経済的に無謀であったというような経済学の議論だけでは限界がある。勿論、24時間動いている世界中のマーケットへの影響も看護できないし、経済問題が国際政治の極めて重要なファクターであることは確かであるが、問題はそこに留まらない。
 ギリシャ危機から派生する政治的リスクは計り知れないものがある。ヨーロッパ各国における内政の不安定化、EU統合によるヨーロッパ再建という歴史的実験への影響、ドイツ脅威論の再燃、ロシアと中国が突きつけている新たな国際政治の動き、アフリカ・中東からヨーロッパに渡ってくる不法難民、イスラム国と世界中に広がるテロ活動、混迷化する中東情勢、米国の世界戦略、等々。それらはすべて連動しており、冷静に対応しなければ、これまでにない不安定な状況が世界に広がる危険を孕んでいる。
 バルカン半島発の混乱の再現を避けるために、ユーロ圏の首脳は夜を徹した17時間に渡る会議の末、なんとか当面の危機は回避した。バルカン半島が世界の火薬庫であることをヨーロッパ人は忘れていない。だからこそ、今回の危機は何としてでも抑える必要があった。
EU統合は未知なるプロセスの途上にあり、万能薬ではないし、数々の過ちも犯している。しかし、ヨーロッパが60年以上に渡って構築してきたEUという制度が、紆余曲折ありながらもヨーロッパにおける平和の維持に貢献してきたことを認めた上で、客観的にEU・ヨーロッパの動きを分析し、それが国際政治に及ぼす影響を視野に入れた包括的な議論を行い、新しい国際潮流を踏まえて、日本の内外政策を展開しなくてはならない。対岸の火事だ、経済的に日本には影響がない、と言って遠巻きに見ている場合ではないのである。

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