紀伊國屋書店新宿本店にて平体教授のトークイベント「トランプ政権の医療・保健政策とアメリカ社会」を開催しました
2025年12月16日(火)、紀伊國屋書店新宿本店アカデミック・ラウンジにて、本学国際社会学部・大学院国際協力研究科の平体由美教授によるトークイベント「トランプ政権の医療・保健政策とアメリカ社会――『病が分断するアメリカ』その後――」が開催されました。
当日は、司会を小久保康之教授(国際社会学部長)が務め、コメンテーターとして大学院生の砂岡幸恵さん(国際協力研究科修士課程)が質疑応答を担当しました。
■ 講演:第二次トランプ政権下の「変質」する公衆衛生
平体教授は、2023年の著書『病が分断するアメリカ』(ちくま新書)で描かれたアメリカの医療・公衆衛生政策が、2025年の第二次トランプ政権発足以降、どのように変化したかを解説しました。
講演では、トランプ政権の新たな医療政策の特徴として、「科学的専門知尊重から『コモンセンス(一般人の感覚)』重視への転換」が挙げられました。科学的エビデンスよりも個人の自由や直感を優先する政策決定のプロセスを紹介しました。
また、「アメリカ・ファースト」の影響が国際保健分野に深刻な打撃を与えている現状も指摘されました。WHO(世界保健機関)からの再脱退に加え、USAID(米国国際開発庁)のプログラムの約83%が停止され、HIVやマラリア、ポリオなどの感染症対策やワクチン支援への資金拠出がストップしていることに対し、平体教授は「世界規模の感染症リスクを高める危険な動き」であると指摘しました。
さらに、合成麻薬「フェンタニル」の問題が公衆衛生から安全保障の問題へ軸足が移っている点についても言及がありました。合成麻薬密輸阻止を名目とした他国民間船舶への武力行使や関税措置が優先される現状は、中米・カリブ海の国際秩序に変容をもたらすものであるとの分析が行われました。
■ コメンテーターと会場との対話
後半では、現役の看護師であり、JICA海外協力隊としてアフリカでの活動経験を持つ大学院生の砂岡幸恵さんによる質疑応答がなされました。砂岡さんは、医療現場や自身のアフリカでの経験を踏まえ、政策が現場に及ぼす影響についての視点からコメントを寄せ、アカデミックな分析と現場のリアリティをつなぐ議論が展開されました。
また、参加者から「トランプ政権による政策変更のメリット・デメリット」について質問が挙がりました。平体教授は、メリットとして「税金の効率化をアピールできる政治的得点」を挙げつつも、デメリットとして「科学的知識への尊敬の薄れ」を強調しました。特に、CDC(米国疾病予防管理センター)が公開していた過去の膨大な研究論文やワーキングペーパーの多くが削除された事実に触れ、世界的な公衆衛生の知の集積にアクセスできなくなっていることへの強い危機感を指摘しました。
本イベントは、パンデミックを経てさらに深まったアメリカ社会の分断と、その政治的・社会的背景を多角的に理解する貴重な機会となりました。
■ 対話の盛り上がり・まとめとして
国際社会学部・国際協力研究科 田中極子准教授は、国際安全保障の視点から、公衆衛生は歴史的に植民地管理や国家防衛の中核であったと指摘しました。従来、先進国は途上国の病を研究することで自国を守ってきたが、グローバルサウスの台頭により、ワクチン分配やパンデミック条約を巡る思惑が複雑化していると分析し、WHOの情報網を支えてきたCDCの機能低下は、世界の感染症監視体制を弱体化させ、全人類の安全保障に関わる重大な危機であると述べました。
司会の小久保教授は、ヨーロッパ政治の視点から、EUと各国の役割分担(専門知と政治的説得)を例に挙げ、科学的知見を大衆にどう納得させるかが指導者の役割であり、現代では「税金が自分たちに還元されていない」という不満がポピュリズムや自国第一主義を招き、民主主義や国際協調の維持を困難にしている現状について、日本も含めた共通の課題として論じました。
本イベントには、定員を超える多くの方にお越しいただき、アメリカ社会の重要課題に対する関心の高さが伺えました。
本学は今後も、社会の諸問題に関する知見を発信し、社会貢献活動を続けてまいります。
■ 次回以降の予定について
2025年度は下記のとおり、後2回トークイベントを予定しています。
第2回 2026年2月14日(土) 14:00~15:30 西 洋子 教授
第3回 2026年3月 8日(日) 14:00~15:30 小久保 康之 教授
詳細は後日掲載いたします。