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大学概要

学長室から

<学長室の窓から>『野のユリ』とアーメン

 梅の花の盛りが過ぎ、桜花の蕾が膨らみ始める2月後半は、卒後式の式辞で卒業生に何を述べるかを考える時期でもある。卒業していく学生達は毎年変わるが、卒業生に贈る私のメッセージも毎年変化する。
 本学の卒業式では祝福の気持ちとして、卒業生一人ひとりに黄色い水仙の花(黄水仙)を卒業証書・学位記とともに手渡すのを慣例にしている(9月卒業式では季節柄バラの花となる)。水に咲く仙人のように美しい花、という意味で「水仙」の漢字が与えられたとも聞くが、黄水仙の花の贈呈は東洋英和女学院の慣行で、起源は戦前まで遡る。
 東洋英和ゆかりの地であるカナダでは、黄色い水仙は、主であるキリスト教の受難と復活を祈念する時期に一面に咲き誇るところから、「レント・リリー」(Lent lily受難のユリ)とも呼ばれる。黄水仙の花ことばの一つに「愛に応える」がある。卒業生に、黄水仙の花一輪に込められた学院の建学の精神でありスクールモットーでもある「敬神奉仕」を忘れないで欲しいとの思いが込められる。
 ところで、水仙といえば英語名のlilyから百合(ゆり)の花が脳裏に浮かぶ。そして、昔、小学生の頃に(早く寝なさいと叱る親に内緒で)淀川長治氏が解説していた「日曜洋画劇場」で観た映画『野のユリ』(Lilies of the Field、1963年)を思い出す。主演のシドニー・ポワチエが主演の名演技が胸を打つ珠玉の名作である。ストーリーはアリゾナの砂漠地帯を気ままに旅する黒人青年ホーマー・スミス(ポワチエ)が、東ドイツからの亡命者であるマザー・マリア(リリア・スカラ)ら5人の修道女と出会い、言葉も通じないままに否応なく荒地に教会を建てる手伝いをさせられていく。無垢な修道女たちや、仕事へのプライドにこだわるホーマーの生き方が、「普通の人々」の中の「善意」として上手く描写されている。『野のユリ』はそんなさりげない物語が観る者をアトホームな心地よい気分にさせてくれる映画である。
 この映画はたった一度観たきりであるが、ずっと私の心の深くに残っている。ホーマー役の黒人俳優シドニー・ポワチエをこの映画で初めて知り(彼がこの映画でアカデミー賞主演男優賞を受賞したことは後で知った)、またホーマーが修道女たちに英語を教える場面や、ゴスペル「エイメン」を教えて一緒に楽しく合唱する場面はミュージカル映画のワンシーンを観ているようでとてもいい。私にとって「アーメン」という言葉の初めての出会いであり、ホーマーが教会の屋根に十字架を取り付けるシーンと共に「エイメン」のメロディが今でも浮かんでくる。映画『野のユリ』はマタイによる福音書6章27節の「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい」(新約聖書新共同訳)に由来する。「野のユリ」は一種類の花ではなく 野に咲く花の総称であり、イエスは、ひっそりと野に咲くユリの花は見る者の心に喜びと感動を分け与えてくれる。その美しさを忘れないように、述べられているのである。

2024年2月

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