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公共経済学

担当:野口晴子


単位数
4
配当年次
3年以上
開講期間
通年
曜日・時限
金曜3時限
 わたしたちの生きる社会には、「公的部門」といわれるものがあります。政府・地方自治体、公立の病院、公立の学校などです。これらは何故、「公的」と呼ばれるのでしょうか。その部門の活動の目的が、公共の福祉を提供することにあるということが、その理由です。「私的」集団や一人一人の個人は、その集団に属するメンバーや、あるいは個々人の価値基準でよりよい状態を達成するために、行動します。しかし、「公的」部門は、経済に属している人々全体にとって、よりよい状態が実現するようにという目的で、行動するのです。

 しかし、一つの経済に属している人々の価値基準は異なっています。価値基準が一致することもあるでしょうが、それらが一致しないために、社会の中で様々な対立が起きています。「公的」部門はそのような現状のなかで、社会全体にとってよりよい状態を目指す具対策をもち、実行していかねばなりません。それらは「政策」と呼ばれる一連のプランになるでしょう。社会全体としてどうするべきかという規範がなければ、それは不可能なことです。  公共経済学はそのための様々な、分析道具を提供する学問です。社会全体として、どうするべきかを考えるということは、同じ社会に属するメンバーが、対立する利害や価値基準を抱えながら、どう生きていくかという意味で「共生」を問うことにほかなりません。異なる価値基準を、すりあわせる方法はありうるか、なかった場合どうしたらよいのか、ある「政策」はよりよい社会の状態を実現するといえるのかなど分析を、経済学の道具で行うとどうなるかを、理論編では以下の点を中心に学びます。

 厚生とは何か:個人の幸福や満足度を測る基準はありうるのか。なかったとしたらどうするのか。個人間の幸福や満足度を比較はできるのか。出来なかった場合、社会全体にとってよりよい状態とはどうやって決めるのか。 公共財:個人がひとりで使うことが出来なかったり、そうするのが適さない財とはなにか。そのような財は、誰が供給すべきか。どのような基準でそう判断するのか。
外部性:ある個人の経済活動が別の個人の経済活動に影響を与えるが、その影響が市場を通さずに及んでしまうとは、どのようなことか。その場合、市場では対応しきれず、予測も出来ない社会全体への影響があるとおもわれるが、「公的」部門はそれにどう対処したら良いのか。
費用便益分析:「公的」部門の政策の評価方法には、どのようなものがあるか。社会の便益を図るとはどのようなことか 情報の非対称性:契約を結ぶとき、その契約者双方の知っていることがことなり、契約に関して重要な内容で、一方が知っていて、他方が知らないことがあるとき、情報が非対称であるという。「公的」部門とその利用者の間に情報の非対称性があったらどうなるか、民間部門の間で情報の非対称性がある場合、「公的」部門はどういう政策をとるべきか。

<事例編>
 学んだ理論を活かした実証研究を、以下の事例を中心に行います。

事例研究I(環境):個人がひとりで使うことが出来ない、また、そうするのが適さない財=典型的な公共財としての「環境」について考え、環境問題に対する公・私的セクター両者の役割について模索していきます。

事例研究II(医療/福祉):医療サービスにおける公的セクターの役割と医療サービス市場について概観した後、情報の非対称性問題の極端なケースとしての患者と医師との間の関係を考えていきます。更に、医療過誤と臓器移植の問題について、市場に共生する各経済主体(需要サイド=患者;供給サイド=医師あるいは医療施設;公的セクターの市場への介入)がどのように意思決定を行っているのか、実際のデータを用いて検証し、ありうるべき政策についても考えていきたいと思います。

事例研究III(教育):教育サービスにおける公的セクターの役割と教育サービス市場について概観した後、医療サービスと同様、情報の非対称性問題の極端なケースとして考えられうるであろう、子と親、あるいは、生徒と教員との間の関係について考えます。また、具体的な少年犯罪という事例を取り上げ、「市場」からはみだしてしまった個人の存在に焦点を当ててみたいと考えています。また、教育政策についても、公共経済学の枠組みでどう考えるか、検証します。