花子プロジェクト第1期生、社会に歩みを進める
本学の人間科学部人間科学科は、2017年に『花子プロジェクト/村岡花子記念給費奨学生』を創設しました。
児童養護施設に暮らす女子生徒に、大学進学のチャンスを掴んでもらうべく、入学検定料・入学金・学費を免除する制度です。一般の入試制度と異なり、入学から在学中の支援を含めて卒業までをトータルサポートし、社会に送り出すことを目指している点が特徴です。
花子プロジェクトの名称は、1913年に東洋英和女学校高等科を卒業した村岡花子に由来します。村岡花子は、翻訳家・児童文学者として多くの業績を残しており、『赤毛のアン』を翻訳しました。女性だから、経済的に不利だからという理由で諦めず、給費を得て、学びの機会を掴み、社会に羽ばたいた女性です。
本プロジェクトの奨学金は、村岡花子の遺志に基づく翻訳書印税の一部により支えられています。
プロジェクト開始後、初めての卒業生が誕生しました。2017年に入学した第1期生は、2021年3月無事に卒業しました。そのうち1名から、大学進学に対する思い、在学中のこと、現在のことに関してお話を伺い、同じ境遇にある10代への温かいコメントをもらいました。
Q. 花子プロジェクトをはじめて聞いたとき、どのように思いましたか?
家庭環境を考えて高校卒業後は就職しか選択肢がないと思い込んでいましたが、花子プロジェクトの存在を知り、『大学へ進学できる』という可能性が広がりとても嬉しく思ったのを覚えています。将来に対する希望が溢れました。
花子プロジェクトを知らなければ、大学進学は諦め視野に入れないように行動していたと思います。
Q. 大学に進学して、どのような経験をしましたか?
大学では先生方に大変お世話になりました。
大学の授業、アルバイト、家事などの両立が大変になり、先生に相談中に大泣きをしたこともありました。他の人との生活水準を比べてしまうことが原因でした。施設出身ということは他の学生には知らされていませんでしたが、家族で暮らせる人が羨ましく感じたり、アルバイトをしなくてもいい学生を見ると胸が苦しかったです。
でも、これは大学に通えたからこそ見えてきた現実でした。そんな時にいつも話を聞いてくださったのが大学の先生です。苦しい時もアドバイスをくださり、人と比べずに大学生活は『自分らしく』あるべきだと教えてくださったのが印象に残っています。
Q. 就職をして、今の生活について、どのように感じていますか?
社会人はアルバイトと異なり、勤務時間が決まっていたり、残業があったりと学生の時に想像していた生活より、きつい部分もあります。仕事に対する責任も増えました。
だからこそ、時間や健康がいかに大切かに気づくことができました。そして小さな幸せにも気づけるようになったため、家族といる時間や、お休みの日がどれほど貴重かを改めて気付かされています。
Q. 同じ境遇にある10代に一言お願いします。
施設にいることで将来に対して不安になったり、学びたいことが学べないのかと残念に思ったり、考えてしまうことが多くあると思います。
望んだ家庭環境ではないのに、将来に対しての不安が大きすぎますよね。
私は花子プロジェクトと出会い、大学進学という選択肢ができ、将来に対する希望が増えてきたことを実感する日々でした。
今はまだ大学でしたいことがなくても、学生生活の4年間では多くの価値観に触れることができます。色んな人がいて、考えがあり、進む道も違えば、想像する将来も違います。
施設から卒業し、大学での生活は不慣れなものもありましたが、自身の成長と今後の将来をじっくりと考えられる場所だと思います。そして、大学は『自分らしく』が強調される場所だと感じています。
創設者である人間科学部長 佐藤智美 教授(専門:教育社会学、比較教育学)のコメント
「2021年3月、花子プロジェクト第1期生の卒業を見送りました。花子さんたち(花子プロジェクトで入学した学生さんを花子さんと呼んでいます)にとっても私にとってもあっという間の4年間でした。一緒に笑ったり泣いたりしたことを思い出します。つかず離れずの距離を心がけてきましたが、花子さんたちはそれぞれに大学生活に親しみ、成長していきました。
大学では、多様な人々や知識やスキルと出会う経験を通して、将来の選択の幅を広げてくれればと願っています。今回のインタビューで花子さんの在学中の気持ちを改めて知ることができました。大学での4年間はそれぞれに楽しく、社会に出ていく入り口ではありますが、ここでの経験はあくまでも今後のための足場であり、それを超える豊かな経験を重ねていってほしいと思います。花子プロジェクトの真価が問われるのは、花子さんたちにとっても大学にとってもまだまだ先のことだと思います。」
■募集学科人員
人間科学部人間科学科 2名(2022年3月卒業見込みの者、2021年3月卒業した者)
■募集方法・応募手続き
児童養護施設長と高等学校長の推薦により、応募可能となり、指定施設推薦入試実施前に本学担当者との事前面談を行う必要があります。
2021年8月17日(火)までに、施設を介して、応募の意志を本学入試広報課に連絡してください。
詳しい内容は、お問合せの上、パンフレットをお取り寄せください。
人間科学科指定施設推薦ページ
https://www.toyoeiwa.ac.jp/daigaku/pdf/shiteishisetsu.pdf
※問合先:e-mail nyushi@toyoeiwa.ac.jp/ 電話045-922-5512(入試広報課)