女子大学が注目されている。18歳人口が減少し続ける中で日本の大学数は減ることがなく、学生の奪い合いが激しさを増しているのがその背景にある。共学大学でさえ学生確保が厳しく、女子学生の獲得が重要な大学運営戦略の一つとなる中、入学者が女性に限定される女子大は一層厳しい。コロナ禍が高校生の大学選びに大きく影響し、少なくない女子大で定員割れを顕在化させることになった。学生の募集停止や定員見直し、さらにはやむを得ず共学化に踏み切る大学がある一方で、理工系の学部を新設して学生を誘引しようと試みる女子大も少なくない。いかに崇高で高邁な建学の精神や教育理念があっても、女子の学生を定員数まで確保するのはますます難しくなっているのが今の状況である。
ところで、日本の女子大学は世界の中で特異な存在なのであろうか。先進国の中で女子大学が存在するのは日本以外には米国と韓国などごく少数である。日本の女子大は73校あるが(2023年。うち国立と公立がそれぞれ2校、それ以外はすべて私立)、校数には少ないものの、国内の大学約800の中で9%と割合は低くない(数の取り方は難しいが、例えば韓国は女子大7校vs大学約190校(大学・大学校)で約4%、米国は同30校vs2,600校で約1%など) 。
女子大は時代の移り変わりに伴い、育成する人材像や学びが大きく変わってきている。以前は4年制の女子大学卒業生の就職は短大生のそれに比べて厳しく、そのため、人文系や家政系の学部が多くを占めていた。女性の就労環境を改善する男女雇用機会均等法が1985年に成立し(施行は翌1986年)、その後、多くの短大が4年制女子大学に組織替えをして開学するところが増えた。
1884年創立の東洋英和女学院を母体とする本学が開学したのは1989年で、今年35年目を迎えた。本学は東洋英和女学院の歴史と伝統を守るキリスト教教育の高等教育機関であるが、開学当時から人文学部に人間科学科と社会科学科の1学部2学科編成で、当時の女子大としては珍しい社会科学系の学科を設置した。その後何度かの変遷を経て、現在2学部4学科編成であるが、学院創設以来の建学の精神である「敬神奉仕」を受け継ぎ、その礎の上に「専門性」に根差したリベラルアーツ教育を実践してきており、「誰かのために、まず私から始めましょう」(For someone's sake, let me begin first.)という言葉とともに、これまで多くの女性を世に送り出している。
国内に73ある女子大学はキリスト教系を含めそれぞれの建学の理念や特徴、特性を活かして、共学の大学にはない魅力と存在意義を有している。女子大は1学部や2学部構成の比較的規模の小さいところが多く、その点でも、近年重要視されるようになってきた多様性の尊重と、すべての人を公正に受け入れるという考え方の推進や取り組みにおいて絶好の学びの環境を有している。依然ジェンダーギャップが大きいとされる日本社会において、今後も女子大学が存在することの有用性や存在意義、存在価値は薄まることはなく、むしろもっと評価されて良いと考える。以上のようなことを踏まえ、本学は2026年4月に1学部3学科体制に移行する構想を発表している(2024年7月現在)。これからも、世界や地域の状況にアンテナを高く張り、女性のニーズに応えられる高等教育機関であり続けられるよう、本学の運営に携わってまいりたい。
安東由則(武庫川女子大学教育研究所教授)「アメリカ・日本・韓国における女子大学の動向と特性比較」、実践女子大学下田歌子記念女性総合研究所 年報 第 8 号 2022. 3、武庫川女子大学教育研究所HP http://kyoken.mukogawa-u.ac.jp/、webデータ等を参照
2024年7月